001:新
新しき夜の足音あはあはと滲み溶かして街灯の下
002:甘
時計見る瞬間口にスプーンを 甘きイチゴのジャムを舐め取る
003:各
各階に置かれたままの掃除用具 雨降りやまぬ明け方暗し
004:やがて
やがて来るエンドロールの白文字をより鮮やかに黒髪の君
005:叫
ベランダに墜ちぬる鳩の羽ばたきに朝の大気は震え叫びつ
006:券
ジャンパーのポケットの半券 去年観た映画のタイトルを思い出す
007:別
木々震へ逆立つ風の春の日に別れを告ぐる踏み切りの音
008:瞬
階段を駆け上がる子の足裏にいや瞬きて硝子片散る
009:テーブル
真夜中に蛍光灯を点すとき夜の続きはテーブルの上
010:賞
古書店の楽譜背表紙日焼けせり 賞味期限を過ぎたる音符
011:習
いづ方に行かばや君の街ならん 常の習ひの言葉こぼるる
012:わずか
あはあはと朝のしづくに染む花のわづかゆらめく黄赤けやけし
013:極
はた赤く唇濡らし流るるを見極めをらん恋人の血を
014:更
月のなき夜は更けぬらん こんこんと空切る、丸き文字盤の時計
015:吐
あやかしの子別れ狐じんじんと湯気吐き出して泣きぬる薬缶
016:仕事
封筒の宛名を眺め裏返し我が名を見つめ仕事へと行く
017:彼
彼此岸の別なく橋を駆け抜くる電車望郷十八の夏
018:闘
こは闘鶏の羽撃きなれや読み捨てし文庫の頁風に煽らる
019:同じ
表札に同じ苗字の人がいて同じ苗字の犬がいること
020:嘆
スクリーンに嘆きの瞳映し出す遠き不幸は誰の不幸ぞ
021:仲
恋仲の子供ふたりは微笑まず火にあたりたるごとく息詰む
022:梨
すらすらと皮を剥かんと左手に取りたる梨の水分重し
023:不思議
夏の日の不思議真白き骨の色写しとりたる砂浜の砂
024:妙
精妙なカーヴ描きて今しがた君の座りしソファのへこみ
025:滅
滅び行く春ひとたびの桜花 川に降り敷く夢のなきがら
026:期
熊蝉の最期の声を聞き留めむ 恋に落ちし日の思ひ出として
027:コメント
会議室の伝言板にコメントを ドアの向こうを走る先輩
028:幾
恋人は幾度涙を落とせしか爪の光沢ぬれぬれと照る
029:逃
逃げ水に映れる空は足早に雲引き連れて西へ飛び行く
030:財
陽を受けて財布の金具鈍色にきらめきながらしゃらしゃらと落つ
031:はずれ
髪長き君の髪留めふとはづれ微笑む頬をほの隠しけり
032:猛
エレベーターに猛獣使い一人ゐて十七階より人を見下ろす
033:夏
山に鳴き野に羽散らすオホルリの羽音しば撃つ高き夏空
034:勢
勢力の強き台風吹く町の図書館の書庫しんと眠れる
035:後悔
明日にはきっと後悔するだろう かばんに花を挿したまま行く
036:少
痛ましき事件知らする番組にいま少しチェイスの曲を聴きたし
037:恨
君の声君の態度に傷つきて笑顔以外の全てを恨む
038:イエス
はにかんでイエスと言った友達の声高らかに響く教室
039:銃
銃眼をかぞへ回廊歩くとき遠く吼号響きすぐ絶ゆ
040:誇
崩れたる石塀の端誇らしく数条の薄高だかと伸ぶ
041:カステラ
スプーンに力を込めてカステラを崩しつつ思ふ読みかけの文
042:若
オリオンの指差す方に流れ行け君が若やかなる白き息
043:慣
自転車で走る公園沿いの道 人に慣れたる鳩ぞ悲しき
044:日本
葉ずれの音さやぐ晩夏の疚しさを飲み込みて泣くこの国日本
045:喋
喋喋と語る喜劇俳優の瞳の先に真っ黒な点
046:間
仄暗き駐輪場の隙間より黒猫ひとつ駆け出しにけり
047:繋
二棟を繋ぐ廊下は俄雨にしめりたり虫の死骸を濡らし
048:アルプス
アルプスの山のあなたを染めくくる空の真青きミュール小さし
049:括
ストーブのコードを括る紐のよう 冬の終わりの頼りなき朝
050:互
息詰めて互に頬に触れをれば腕時計の針こつこつと鳴る
新しき夜の足音あはあはと滲み溶かして街灯の下
002:甘
時計見る瞬間口にスプーンを 甘きイチゴのジャムを舐め取る
003:各
各階に置かれたままの掃除用具 雨降りやまぬ明け方暗し
004:やがて
やがて来るエンドロールの白文字をより鮮やかに黒髪の君
005:叫
ベランダに墜ちぬる鳩の羽ばたきに朝の大気は震え叫びつ
006:券
ジャンパーのポケットの半券 去年観た映画のタイトルを思い出す
007:別
木々震へ逆立つ風の春の日に別れを告ぐる踏み切りの音
008:瞬
階段を駆け上がる子の足裏にいや瞬きて硝子片散る
009:テーブル
真夜中に蛍光灯を点すとき夜の続きはテーブルの上
010:賞
古書店の楽譜背表紙日焼けせり 賞味期限を過ぎたる音符
011:習
いづ方に行かばや君の街ならん 常の習ひの言葉こぼるる
012:わずか
あはあはと朝のしづくに染む花のわづかゆらめく黄赤けやけし
013:極
はた赤く唇濡らし流るるを見極めをらん恋人の血を
014:更
月のなき夜は更けぬらん こんこんと空切る、丸き文字盤の時計
015:吐
あやかしの子別れ狐じんじんと湯気吐き出して泣きぬる薬缶
016:仕事
封筒の宛名を眺め裏返し我が名を見つめ仕事へと行く
017:彼
彼此岸の別なく橋を駆け抜くる電車望郷十八の夏
018:闘
こは闘鶏の羽撃きなれや読み捨てし文庫の頁風に煽らる
019:同じ
表札に同じ苗字の人がいて同じ苗字の犬がいること
020:嘆
スクリーンに嘆きの瞳映し出す遠き不幸は誰の不幸ぞ
021:仲
恋仲の子供ふたりは微笑まず火にあたりたるごとく息詰む
022:梨
すらすらと皮を剥かんと左手に取りたる梨の水分重し
023:不思議
夏の日の不思議真白き骨の色写しとりたる砂浜の砂
024:妙
精妙なカーヴ描きて今しがた君の座りしソファのへこみ
025:滅
滅び行く春ひとたびの桜花 川に降り敷く夢のなきがら
026:期
熊蝉の最期の声を聞き留めむ 恋に落ちし日の思ひ出として
027:コメント
会議室の伝言板にコメントを ドアの向こうを走る先輩
028:幾
恋人は幾度涙を落とせしか爪の光沢ぬれぬれと照る
029:逃
逃げ水に映れる空は足早に雲引き連れて西へ飛び行く
030:財
陽を受けて財布の金具鈍色にきらめきながらしゃらしゃらと落つ
031:はずれ
髪長き君の髪留めふとはづれ微笑む頬をほの隠しけり
032:猛
エレベーターに猛獣使い一人ゐて十七階より人を見下ろす
033:夏
山に鳴き野に羽散らすオホルリの羽音しば撃つ高き夏空
034:勢
勢力の強き台風吹く町の図書館の書庫しんと眠れる
035:後悔
明日にはきっと後悔するだろう かばんに花を挿したまま行く
036:少
痛ましき事件知らする番組にいま少しチェイスの曲を聴きたし
037:恨
君の声君の態度に傷つきて笑顔以外の全てを恨む
038:イエス
はにかんでイエスと言った友達の声高らかに響く教室
039:銃
銃眼をかぞへ回廊歩くとき遠く吼号響きすぐ絶ゆ
040:誇
崩れたる石塀の端誇らしく数条の薄高だかと伸ぶ
041:カステラ
スプーンに力を込めてカステラを崩しつつ思ふ読みかけの文
042:若
オリオンの指差す方に流れ行け君が若やかなる白き息
043:慣
自転車で走る公園沿いの道 人に慣れたる鳩ぞ悲しき
044:日本
葉ずれの音さやぐ晩夏の疚しさを飲み込みて泣くこの国日本
045:喋
喋喋と語る喜劇俳優の瞳の先に真っ黒な点
046:間
仄暗き駐輪場の隙間より黒猫ひとつ駆け出しにけり
047:繋
二棟を繋ぐ廊下は俄雨にしめりたり虫の死骸を濡らし
048:アルプス
アルプスの山のあなたを染めくくる空の真青きミュール小さし
049:括
ストーブのコードを括る紐のよう 冬の終わりの頼りなき朝
050:互
息詰めて互に頬に触れをれば腕時計の針こつこつと鳴る
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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術