051:たいせつ
おちるとき蹠に皹走りたり たいせつなものはけして離さない
052:戒
戒むるごとき装ひワイシャツの袖のボタンを片手で留める
053:藍
藍色といふ色を知らず夕暮れの空深まりて冷ゆる白雲
054:照
照らふ陽も燃え立つ朝の陽炎も劈く携帯電話の電波
055:芸術
芸術の秋深まれば燃ゆる火は絵具のすさび群青の静
056:余
焼酎の傍に余れる氷塊の軋みし後に湿りたる音
057:県
滋賀県を走る電車は雪の白 冬はじまりの寒さをはこぶ
058:惨
一篇の詩をひと息に紡ぎけり惨たる朝は陽に温びゆく
059:畑
踏み切りの音いや遠し真みどりのすいか畑の葉葉は目を閉づ
060:懲
雨の日の逸る心は懲りずまに濡れ手ながらにページを捲る
061:倉
軒の翳深き日中の倉の戸に糸をかけたる蜘蛛風に揺る
062:ショー
ほつれ毛のすぢ金いろにきららかせショートカットの人うつむきぬ
063:院
地下に入り西院駅を行き過ぎる幽霊電車桃を運び来
064:妖
キッチンに水妖の歌響くとき受話器に投げる悲しさひとつ
065:砲
しんしんと滴響ける浴室の曇り鏡を撃つ水鉄砲
066:浸
絨毯を浸し花瓶の倒れをり はなぶさひとつ蓮(はちす)のごとし
067:手帳
手帳には約束だけが残されて今日も世界のどこかで豪雨
068:沼
沼床に硬貨の銀の静もれり そよ吹く風にさざれ波寄る
069:排
排すべき文字はノートの罫線の外側に貼り付きて眠れり
070:しっとり
珈琲のシュガーの袋しっとりと滲みわたりゆく死にゆける骨
071:側
右側に身を寄するとききしむ椅子 花は陽差しを受けて枯れゆく
072:銘
銘刀の冴えたる空の冬深みホットコーヒーの湯気立ちまさる
073:谷
谷川にあまた星ぼし揺らしつつ冬の夜閑と冴えわたりけり
074:焼
泣きわめきたき心あり眼裏の塊を焼く曙光いざ、はや
075:盆
銀盆にスープひと匙垂らすとき春かぐはしく花と開けり
076:ほのか
星ほのか木叢焼べたり 玉砂利を踏み鳴らしゆく真夏の独歩
077:聡
眠れるは聡明なる子 暗闇に睫毛するどきこと針のごと
078:棚
本棚にギターピックを置き忘れ 昨日のことは思い出せない
079:絶対
堅き殻を卓の角もて砕く朝絶対の膜にはか裂けけり
080:議
すべり台を砂ながるる日子どもらのバケツの端の会議はじまる
081:網
網膜にタージマハールの影さやか映りしをこぼす別れの涙
082:チェック
青と黄のチェック模様のバレッタをはづせば肩にかかりくる髪
083:射
放射状に伸ぶるスポーク数あまた いづれことなる色に照りをり
084:皇
イヤホンにジャズを聴きをり BOOK OFFの棚に並みたる皇室写真集
085:遥
木の間より星ぼし遥かふるへつつ灯れり汝は恋やしたると
086:魅
針ひとつひらめきながら落つるとき蛍光灯下魔魅顕現す
087:故意
裏庭に割れ硝子しづもりてあり そが憎らしく故意に砕きつ
088:七
窓辺に立ちて給水塔を見やるとき七人ミサキの立ち止まる音
089:煽
春風はコルクボードのメモ用紙を煽り煽りつ 大き蛾のごと
090:布
鼻の奥ほつれて絡む目薬を布に染ませるみたいにほぐす
091:覧
受賞作一覧の一齣となる小さきフォント 旅のいやはて
092:勝手
身勝手な文字赤あかと散らばったホワイトボードを裏向けて出る
093:印
珈琲を飲みし印は真っ白きカップに残る真黒きリング
094:雇
セーターの袖口を縫ふ妖精を雇はんと思ひて心を清む
095:運命
恋はるか花の無情を紐解かば運命の遊具軋みつつ巡る
096:翻
九歳の夏の記憶は海風に翻弄される算数ノート
097:陽
こもれ陽の砕け結びをくりかへし夏をとどむることぞをかしき
098:吉
首長き扇風機(ファン)の回転かろかろと吉報待てる頬を風撫づ
099:観
蝉あまた鳴ける秀つ枝の影つばら観光びとの傘に彩なす
100:最後
レンブラント画集最後の自画像は鏡のごとく吾を見つめをり
おちるとき蹠に皹走りたり たいせつなものはけして離さない
052:戒
戒むるごとき装ひワイシャツの袖のボタンを片手で留める
053:藍
藍色といふ色を知らず夕暮れの空深まりて冷ゆる白雲
054:照
照らふ陽も燃え立つ朝の陽炎も劈く携帯電話の電波
055:芸術
芸術の秋深まれば燃ゆる火は絵具のすさび群青の静
056:余
焼酎の傍に余れる氷塊の軋みし後に湿りたる音
057:県
滋賀県を走る電車は雪の白 冬はじまりの寒さをはこぶ
058:惨
一篇の詩をひと息に紡ぎけり惨たる朝は陽に温びゆく
059:畑
踏み切りの音いや遠し真みどりのすいか畑の葉葉は目を閉づ
060:懲
雨の日の逸る心は懲りずまに濡れ手ながらにページを捲る
061:倉
軒の翳深き日中の倉の戸に糸をかけたる蜘蛛風に揺る
062:ショー
ほつれ毛のすぢ金いろにきららかせショートカットの人うつむきぬ
063:院
地下に入り西院駅を行き過ぎる幽霊電車桃を運び来
064:妖
キッチンに水妖の歌響くとき受話器に投げる悲しさひとつ
065:砲
しんしんと滴響ける浴室の曇り鏡を撃つ水鉄砲
066:浸
絨毯を浸し花瓶の倒れをり はなぶさひとつ蓮(はちす)のごとし
067:手帳
手帳には約束だけが残されて今日も世界のどこかで豪雨
068:沼
沼床に硬貨の銀の静もれり そよ吹く風にさざれ波寄る
069:排
排すべき文字はノートの罫線の外側に貼り付きて眠れり
070:しっとり
珈琲のシュガーの袋しっとりと滲みわたりゆく死にゆける骨
071:側
右側に身を寄するとききしむ椅子 花は陽差しを受けて枯れゆく
072:銘
銘刀の冴えたる空の冬深みホットコーヒーの湯気立ちまさる
073:谷
谷川にあまた星ぼし揺らしつつ冬の夜閑と冴えわたりけり
074:焼
泣きわめきたき心あり眼裏の塊を焼く曙光いざ、はや
075:盆
銀盆にスープひと匙垂らすとき春かぐはしく花と開けり
076:ほのか
星ほのか木叢焼べたり 玉砂利を踏み鳴らしゆく真夏の独歩
077:聡
眠れるは聡明なる子 暗闇に睫毛するどきこと針のごと
078:棚
本棚にギターピックを置き忘れ 昨日のことは思い出せない
079:絶対
堅き殻を卓の角もて砕く朝絶対の膜にはか裂けけり
080:議
すべり台を砂ながるる日子どもらのバケツの端の会議はじまる
081:網
網膜にタージマハールの影さやか映りしをこぼす別れの涙
082:チェック
青と黄のチェック模様のバレッタをはづせば肩にかかりくる髪
083:射
放射状に伸ぶるスポーク数あまた いづれことなる色に照りをり
084:皇
イヤホンにジャズを聴きをり BOOK OFFの棚に並みたる皇室写真集
085:遥
木の間より星ぼし遥かふるへつつ灯れり汝は恋やしたると
086:魅
針ひとつひらめきながら落つるとき蛍光灯下魔魅顕現す
087:故意
裏庭に割れ硝子しづもりてあり そが憎らしく故意に砕きつ
088:七
窓辺に立ちて給水塔を見やるとき七人ミサキの立ち止まる音
089:煽
春風はコルクボードのメモ用紙を煽り煽りつ 大き蛾のごと
090:布
鼻の奥ほつれて絡む目薬を布に染ませるみたいにほぐす
091:覧
受賞作一覧の一齣となる小さきフォント 旅のいやはて
092:勝手
身勝手な文字赤あかと散らばったホワイトボードを裏向けて出る
093:印
珈琲を飲みし印は真っ白きカップに残る真黒きリング
094:雇
セーターの袖口を縫ふ妖精を雇はんと思ひて心を清む
095:運命
恋はるか花の無情を紐解かば運命の遊具軋みつつ巡る
096:翻
九歳の夏の記憶は海風に翻弄される算数ノート
097:陽
こもれ陽の砕け結びをくりかへし夏をとどむることぞをかしき
098:吉
首長き扇風機(ファン)の回転かろかろと吉報待てる頬を風撫づ
099:観
蝉あまた鳴ける秀つ枝の影つばら観光びとの傘に彩なす
100:最後
レンブラント画集最後の自画像は鏡のごとく吾を見つめをり
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