051:たいせつ
たいせつな一曲のあるCDも貸しっぱなしの恋のあとさき
052:戒
戒めを守らば胸のきしきしと研ぎ澄まさるる割れ殻の鋭し
053:藍
灰厚き曇天に穴点ぜむと藍色のボール放り上げけり
054:照
点と滅を不定期的に繰り返す照明の声を眼を閉じて聞く
055:芸術
日本史の教科書左上方に芸術として小さき写真
056:余
校庭のムクロジに耳くっつけて幹は短き腕に余れり
057:県
県庁は正しき書割のさまをして木陰揺るる通りに立てり
058:惨
惨めなる人と思ほゆ夜の街の空に映れる顔なき塑像
059:畑
病院の白き壁見ゆそはかつて蓮華や芋の畑でありし
060:懲
懲らしむる日を待つや君 泣くべきに笑ひ顔にて我を見据うる
061:倉
海辺には倉庫並みをり手に持たる本ひらひらと風のまにまに
062:ショー
月影を細長く切り取る窓は劇場なりき一幕のショー
063:院
吹く風にマクドナルドの紙袋かさかさと病院を横切る
064:妖
明日には解ける妖術目に宿し君一人立つ図書館の前
065:砲
大砲をそと撫づる指白じらと海に浮かべる鴎の死体
066:浸
石鹸を湯に浸しをりきらきらと洗面器より溢るる光
067:手帳
晴天の神保町を行きしとき買ひし栞を手帳に挟む
068:沼
沼深しA罫ノートはらはらと捲る指の乾きを思ふ
069:排
赤煉瓦陽を受け金に輝けり排気口の翳くらぐらと伸ぶ
070:しっとり
手洗ひをすればしつとり色深く重く窓辺に揺るるカーディガン
071:側
側溝の?蛄両の腕を上ぐ 子らよ雄雄しく空駆けまはれ
072:銘
墓碑銘に同じ名を持つ友のゐてスマートフォンの電池残量
073:谷
飛行機の窓よりはるか谷底をなぞる水の細きを見たり
074:焼
鉛筆の芯焼かむわが指先に爪歪まするごと力込む
075:盆
盆上に赤き液体なみなみと その赤の中グラスの破片
076:ほのか
喜びはほのかゆらめきストーブに焼かれふくらむまろき切り餅
077:聡 (猿を詠める)
聡明と言はば言へわが額には波寄りぬるを苛々と撫づ
078:棚
目の高さの棚に差したるCDのタイトルを追ふ 首傾けて
079:絶対
絶対に掘り返してはならないよ 埋もれる骨の名を僕は知る
080:議
向き合ひて首を伸ばせる亀と亀 議論は苔の上にて進む
081:網 ―お題詠み込みミス―
鉄鋼のパイプ全ての重厚を我に向けたり春の日中に
082:チェック
昨日より今日ぞ愛しきいとしさのチェックポイントひとつ積み上ぐ
083:射
わが罪は靴音響くマンションの廊下そを射る弓張の月
084:皇
辞書を買ふことを決めたる朝なれば皇(すめらみこと)の字の美しき
085:遥
餐の皿の蛍光灯下並ぶとき遥かドイツの森暗からん
086:魅
魅力的な口元に粉きらきらとビスケット噛む天気雨の午後
087:故意
社会科のテストを故意に間違へつ 跫重く耳小骨鳴る
088:七
酒呑まば七度狐に化かされむ 花を手折らば眠るころあひ
089:煽
秋風は燃ゆる楓の葉を煽り天を灼くなり 朽ち葉を焼べむ
090:布
粗布に針を刺したり傷あれど血を流すことなき粗布に
091:覧
欧人の自画像並ぶ展覧会会場前を早足に過ぐ
092:勝手
触れるのもどうぞご勝手 私の長き黒髪風に靡かす
093:印
ナイアガラの滝しぶかせてポスターに印字されたるわが名消したし
094:雇
雇はれてペンを持つ身にあらたまの年積もりぬることぞおもしろき
095:運命
運命論は明日の恋のゆくすえを見届けるまで少しお預け
096:翻
ベランダのブランケットを翻へし吹き止まぬ風あはれ 北風
097:陽
羽広げ飛ぶ鷲の影地を這へり黒き獣のさま陽りて
098:吉 ―お題詠み込みミス―
運勢の悪き日なればハイビジョンテレビの横のコインを返す
099:観
試合後の観客席につむつむと白きものあり顔のごとくに
100:最後
ポケットに最後の500円玉をたしかめ歩く駅前の道
たいせつな一曲のあるCDも貸しっぱなしの恋のあとさき
052:戒
戒めを守らば胸のきしきしと研ぎ澄まさるる割れ殻の鋭し
053:藍
灰厚き曇天に穴点ぜむと藍色のボール放り上げけり
054:照
点と滅を不定期的に繰り返す照明の声を眼を閉じて聞く
055:芸術
日本史の教科書左上方に芸術として小さき写真
056:余
校庭のムクロジに耳くっつけて幹は短き腕に余れり
057:県
県庁は正しき書割のさまをして木陰揺るる通りに立てり
058:惨
惨めなる人と思ほゆ夜の街の空に映れる顔なき塑像
059:畑
病院の白き壁見ゆそはかつて蓮華や芋の畑でありし
060:懲
懲らしむる日を待つや君 泣くべきに笑ひ顔にて我を見据うる
061:倉
海辺には倉庫並みをり手に持たる本ひらひらと風のまにまに
062:ショー
月影を細長く切り取る窓は劇場なりき一幕のショー
063:院
吹く風にマクドナルドの紙袋かさかさと病院を横切る
064:妖
明日には解ける妖術目に宿し君一人立つ図書館の前
065:砲
大砲をそと撫づる指白じらと海に浮かべる鴎の死体
066:浸
石鹸を湯に浸しをりきらきらと洗面器より溢るる光
067:手帳
晴天の神保町を行きしとき買ひし栞を手帳に挟む
068:沼
沼深しA罫ノートはらはらと捲る指の乾きを思ふ
069:排
赤煉瓦陽を受け金に輝けり排気口の翳くらぐらと伸ぶ
070:しっとり
手洗ひをすればしつとり色深く重く窓辺に揺るるカーディガン
071:側
側溝の?蛄両の腕を上ぐ 子らよ雄雄しく空駆けまはれ
072:銘
墓碑銘に同じ名を持つ友のゐてスマートフォンの電池残量
073:谷
飛行機の窓よりはるか谷底をなぞる水の細きを見たり
074:焼
鉛筆の芯焼かむわが指先に爪歪まするごと力込む
075:盆
盆上に赤き液体なみなみと その赤の中グラスの破片
076:ほのか
喜びはほのかゆらめきストーブに焼かれふくらむまろき切り餅
077:聡 (猿を詠める)
聡明と言はば言へわが額には波寄りぬるを苛々と撫づ
078:棚
目の高さの棚に差したるCDのタイトルを追ふ 首傾けて
079:絶対
絶対に掘り返してはならないよ 埋もれる骨の名を僕は知る
080:議
向き合ひて首を伸ばせる亀と亀 議論は苔の上にて進む
081:網 ―お題詠み込みミス―
鉄鋼のパイプ全ての重厚を我に向けたり春の日中に
082:チェック
昨日より今日ぞ愛しきいとしさのチェックポイントひとつ積み上ぐ
083:射
わが罪は靴音響くマンションの廊下そを射る弓張の月
084:皇
辞書を買ふことを決めたる朝なれば皇(すめらみこと)の字の美しき
085:遥
餐の皿の蛍光灯下並ぶとき遥かドイツの森暗からん
086:魅
魅力的な口元に粉きらきらとビスケット噛む天気雨の午後
087:故意
社会科のテストを故意に間違へつ 跫重く耳小骨鳴る
088:七
酒呑まば七度狐に化かされむ 花を手折らば眠るころあひ
089:煽
秋風は燃ゆる楓の葉を煽り天を灼くなり 朽ち葉を焼べむ
090:布
粗布に針を刺したり傷あれど血を流すことなき粗布に
091:覧
欧人の自画像並ぶ展覧会会場前を早足に過ぐ
092:勝手
触れるのもどうぞご勝手 私の長き黒髪風に靡かす
093:印
ナイアガラの滝しぶかせてポスターに印字されたるわが名消したし
094:雇
雇はれてペンを持つ身にあらたまの年積もりぬることぞおもしろき
095:運命
運命論は明日の恋のゆくすえを見届けるまで少しお預け
096:翻
ベランダのブランケットを翻へし吹き止まぬ風あはれ 北風
097:陽
羽広げ飛ぶ鷲の影地を這へり黒き獣のさま陽りて
098:吉 ―お題詠み込みミス―
運勢の悪き日なればハイビジョンテレビの横のコインを返す
099:観
試合後の観客席につむつむと白きものあり顔のごとくに
100:最後
ポケットに最後の500円玉をたしかめ歩く駅前の道
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